志賀理江子 Rieko Shiga 「カナリア門」
志賀理江子 Rieko Shiga 「カナリア門」 created in 2009, bought from 赤々舎 in Jan 2010
https://www.liekoshiga.com/works
志賀理江子さんの写真集です。2007年の「CANARY」の展覧会の写真が収録されています。
100ページほどの写真集で、右ページにL版位の写真が直に貼られており、左ページに文章が書かれています。
文章の中に、「イメージ」という言葉が多く出てくるのですが、作家さんがどう写真でイメージを作り出していくのか、制作へのアプローチの考え方が記載されています。
この写真集で、作家さんは仙台、ブリスベン、シンガポールで写真を撮影されていますが、被写体のコミュニティに積極的に介入し、想像力を働かせ、目の前の現実に働きかけ、現実を変える事で、未知のイメージを写真で作り出している事の勢いや切迫感に心地いい疾走感を感じます。
現実になるべく働きかけないで素を撮影しようとするスナップ写真や現実へ介入する事のない絵画とは対照的な制作方法だなと思います。
私は制作者ではないですが、この写真集を見ると、他社と積極的にコミュニケーションを取り、現実が変えられると信じて想像し、変化を起こしていくアプローチは面白いと思いますし、見習うべきだなと思います。
真面目な写真集だとは思うのですが、好奇心や遊び心を感じますし、その時、どう感じたか、感覚を大事にしつつ、それを写真のイメージに昇華していくような、いろんな要素の間のゆらぎに存在しているような気がします。
何を撮るのか、どう働きかけて撮るのか、私はどのような立ち位置で、何を感じるのか。
目の前の状況に対して、漫然と日常を過ごして何も感じないといった不感症にならず、作品を制作する源泉の自らの感性や閃きや複雑な感情を大事にされているのを感じます。
また、滞在制作にあたって地域を知るフィールドワークとして、この地域で「明るいところ、暗いところはどこですか?」という問いを地域の方にしながら道案内のような地図を作られたようですが、面白いアプローチだなと感じました。
オーストラリア先住民族アボリジニの文化にソングライン(songline)があるそうですが、少しこれが思い起こされました。以下ソングラインのWikipediaの抜粋です。
「ソングラインとは、オーストラリア全土に延びる目に見えない迷路のような道の通称。ドリームタイム(神話の時代)に創造者や各民族の祖先らがたどったとされる天地の足跡を指し、ドリーミング・トラック(dreaming track)とも呼ばれる。アボリジニにとってはドリームタイムの先祖の足跡であり、法を示す道である。アボリジニの中には、歌を通して伝えられたその道に従って移動生活を送るものもある。ソングラインは神話的なものから具体的なものまで、様々なランドマークを結ぶネットワークとなっており、本質的にはその環境の地理的・精神的・社会的・歴史的な輪郭を描写する地図の役割を果たしている。」
自宅と職場を最短時間で往復する地図ではなく、イマジネーションを刺激するような独自の地図を作って移動していくようなプロセスに魅力を感じます。
今は無いですが、赤々舎のギャラリーが清澄白河にあった頃に、友人に誘われて行きました。いい作家さんと写真集を教えてくれて感謝しています。
あの頃は、コヤマトミオギャラリー等々、清澄白河の倉庫のようなギャラリーコンプレックスに行くのが楽しみでした。いい思い出です。
作家さんはその後、東日本大震災の際に居住していた宮城県の北釜地区で被災され、その経験も踏まえて作品を制作されていますが、彼女の制作スタイルとこの大きな出来事が重なる事は数奇な運命なのかなと思ってしまいます。
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