三田健志 Takeshi Mita 「忘れていい景色」


三田健志 Takeshi Mita 「忘れていい景色」 created in 2009, bought from Art data bank in Sep 2009


https://mita-takeshi.tumblr.com/

今、2019年なので、丁度10年前、私が現代アートを見初めて、2009年に初めて購入した作品です。

ぱっと見、分かりにくい作品です。

三田さんは左脳と右脳をバランス良く働かせて作品を作ってらっしゃると思いますが、作家が寄稿した花摘みの証拠という文章の最後に 

「大切なのは感覚を微細にすること、そしてそれを微細なままに記憶すること。大雑把な名前を与えてその内実を忘れてはならない。脆い美しさをしらけずに見つめるには思いのほか心の強さを必要とする」

という、文章があります。利益や営業成績等の分かりやすい結果を出すことを急ぎ、些細なことは気にもしないビジネスマンの心境からすると対局の言葉に感じます。痛いですね。

この作品は廃園になった植物園のミラー越しに、不鮮明に映る像を写真に撮ったもののようですが、この展覧会における三田さんの感性を良く表していたと思います。

作品タイトルに、「忘れていい景色」と言われると、逆に、忘れていいものはあるのか? と意識してしまいます。

以前、美術関係者から教えてもらったのですが、風景・景色を意味する「Landscape」という言葉は、もとは風景「画」を意味していて、画家がある視点を選んで空間を解釈しているという意味だそうです。語源はオランダ語の風景画を描かせる際に契約書の用語として使用されたlantschappen から派生。(Wikipedia参照)

ただ、そこに存在するものを、選んで切り取る意図と行為によって、絵画(この場合は写真ですが)の価値を産み出していくことにどこまで意識的に作品を作っているのか? この「忘れていい」という言葉は逆説的に問いかけている気がします。

アートに、作家に、無価値のものを価値のある作品にする力があるとしたら、モチーフは元々の無価値の物の方が凄いことなのではと思います。

デュシャンの便器、ウォーホルのキャンベルスープ缶は言い過ぎでしょうか?

写真の用途は様々だと思いますが、ボヤケて焦点の定まらないピンぼけ写真は捨てられる写真の代名詞でしょう。勝手に綺麗に撮ってくれるデジタル写真が出来てからは、そもそもでピンぼけの写真は意識しないと撮れないかもしれませんが、、、

また、短時間で対象を認識出来ない、輪郭が不鮮明で、テーマの定まらない写真も捨てられるでしょう。

フィルム代も高く、現像に数十円かかって、写真を多く撮れなかったアナログカメラの時代と違って、無限に写真が撮れるデジタルカメラの時代では、無数の写真を短時間で思い出し、過去の経験を追体験するために、クリアな写真が求められるのかもしれません。

何でもクリアに短時間で。ビジネスのような。

他人に簡単に伝えられるようなクリアで分かりやすい経験(or写真)は、不鮮明な感情(or写真)より価値が高いですか?

他の作品は、TVの画面をぼかして撮影したり、動物の部分的な写真を巨大に引き伸ばしたり、我々の持つ既存のイメージを利用して、それに変更を加えることで、「良く知っているハズのイメージなのに何か違う」といった、不思議な感覚を覚えさせるような、「良く知っているハズの物を知らないかの様に撮る」といったような、トリッキーな制作をされていたような感覚を覚えています。

ビジネスの世界では複雑な物を単純化、固定化、概念化、短期化、合理化、共通化することが尊ばれますが、人生を豊かにするには、この逆で、知ってると思い込んている物を知らないように捉え、結果ではなく、時間をかけて内実を探求していくプロセスを大事にしていく事が重要なのかもしれません。

三田さんは、以降、よりテーマ・企画を大事にされて展覧会を作られ、幸運な事に何回か作品を購入する機会に恵まれました。現在もご活躍されているようです。
https://imaonline.jp/articles/interview/20181222takeshi-mita/#page-1

https://mita-takeshi.tumblr.com/

後日、購入したart data bankで勤務されていた立松さんは、名古屋でSTANDINGPINE(スタンディングパイン)という素敵なギャラリーを立ち上げました。
https://standingpine.jp/

また、一緒にギャラリーを回って下さった西山さんは、ホテル等の施設にアートを設置する企画をされており、後日、H-art Beat Galleryを立ち上げてご活躍されています。
http://hartbeat.co.jp/

最後に、初めての購入に踏み切るきっかけとして、ワンピース倶楽部の存在はとても大きかったです。確か3期目から会員になったと思います。
http://onepiececlub.sakura.ne.jp/
だいちゃんと2期目の「はじめてかもしれない」展を見て、表参道のスパイラルで石鍋さんの説明会の話を興奮して聞き、ワンピース倶楽部に加入したのを今でも良く覚えています。

コメント